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組織する人を育てる

訓練士のためのガイド

著者: フィル・バートル教授

和訳:益子かさり


訓練のための配布資料

普通の人をいかに共同体の指揮者にするか?

共同体を組織化することがその強化に最も重要なら、どうやって組織のしかたを人に教えればいいのでしょう?このモジュール内の訓練用の配布資料はこれから共同体の指揮を担うであろう人に必需の規則とスキルを教えます。もしあなたが教師なら、このモジュール内の配布資料をいかに使うか学んでおくべきでしょう。

いつも私たちは、あなたが 訓練方法のモジュールを読むことを勧めます。そこには一般ガイドラインが記されています。一方、この書類では組織化のスキルに重点をおいています。それらのスキルは例えば貿易連合の組織化のスキルや高齢者への対応の訓練スキルなどで成り立ちます。

さらに、 機能性リテラシーのモジュールも読んでおくことを勧めます。そこでは訓練士はただひたすら正統な方法を真似するだけでなく、基礎から新しく斬新な方法を自分で編み出すことが勧められます。

活動のための訓練

この短い配布書類では、訓練士が共同体の市民が実際にいくつかの計画を経験させることで、実技を通して「計画する」ということを学ばせることを勧めます。これはあなたが訓練士を育てる中でも使われる法則です。正統な教育機関では、カリキュラムが作られ、生徒は試験の点数や宿題の完成度で評価をされます。生徒は学んだということを見せ示すことで成功という評価を得ます。

活動のための訓練ではそれとは違い、私たちの育てる訓練士、そして彼らが必要なスキルをどれくらい学んだかは、試験や論文など点数の取り方を見るのではなく、彼らの教習後の活動を見て評価されます。これが非正統な訓練です。私たちが強調するのは、彼らが共同体の市民に実技を通した訓練ができることです。

ですから、あなたが育てる訓練士に、自分たちが共同体の市民なんだと仮想させます。

彼らを組織化し、その「共同体」がどのようなゴールを持つか決めさせ、計画させ、企画をデザインさせます。その計画を中心として考え話し合わせ、(1) 意思決定のための組織化と(2) 活動のための組織化の違いがあることを確かめます。またあなたと一緒に彼らが行った組織化と計画の中での様々な法則を導き出します。訓練ワークショップでは、評価は「いかに良く計画しているか」によって下されるべきです。

あなたの全体の仕事においては、彼らが自分の担当する共同体の市民にいかに良く企画を選んだり計画させようとするかをもとに評価されるべきです。

執行委員会の編成

これは楽しい企画ですが、同時に衝撃的でもあります。少なくとも20人くらいの集団で行うといいでしょう。これは企画デザインや計画の実技のあとに行うか、または同時のセッションで行われると良いです。このモジュールのための訓練はだいたい丸一日(中休みと昼休みを設ける)を使ったセッション1回分で完了します。

基本的にはあなたは教習する集団で観客のいない劇を行います(ワークショップへの来客も傍観するのではなく劇に参加しなければいけません。観客がいると創作意欲や自由な変化の試みが邪魔されてしまいます)。その集団は演技として、自らが共同体であると仮定し、執行委員を選んだり計画を立て、そして企画をデザインしてみます。劇の中では「共同体」の市民全員がこの作業に参加するようなプロットを描きます。その脚本の作業も、演技と同じく大切な訓練の一環です。一般のロールプレイやシミュレーションゲームと同様に、終わったあとに別の時間を設け復習にあて何が起こったかを話し合うことが重要です。そこで問うのは、劇をやった中でどのような教訓が学ばれ実際に現地で使うことが出来るか、です。

ここで大切なのは、1人の俳優につき1〜2人をアドバイザーとして配置することです。アドバイザーの役目は時間切れを知らせたり俳優に助言をし、より面白く演技するための指導をすることです。あなたは基本のシナリオを作って集団に渡します。その中であなたは既存の指導者(チーフ、カウンセラー、市長など地元にいるであろう人物)を指名します。その人数は集団の人数に合わせて1人の俳優と1〜2人のアドバイザー(または2〜3人の俳優と1〜2にんのアドバイザー)に調整します。

そして「共同体」の中では、様々な種類の市民の役を設けます。作業から抜け落ちやすい種類の市民もきちんと設けます。それは女性、身体の不自由な人、少数派民族、保守的な地区に住む少数派宗教の信仰者などです。他にも高齢者、犯罪者、元容疑者などがあり得るでしょう。

人々をできるだけ現実で遭遇しないであろう状況に置きましょう。これは法則の一つであり、あなたが訓練士を育てる際にやって見せるもので、また訓練士があなたの指導から行うものです。例えば男性に「女性」の役を演技させます。健康的な人に「身体の不自由な人」の役をさせます。無口でおとなしい人を「共同体の作業を自分の政党に有利な方向へ利用しようとする欲張りな政治家」の役にします。これは私たちをシナリオのもう一つの要素へ導きます。

ある人が工場を妨害する役を演じます。(1) 組織化の作業を自分の有利な方に操作しようとする市民の役を作るのです。例えばある学校の校長が、市民に「自分たちが必要なのは新しい学校だ」と思い込ませようとする、というのでもいいでしょう。

注釈 「自在スパナを機械に投げ入れる(Throw a money wrench into the works)」というフレーズは英語では仕事を妨害するもの、作業の円滑な進行を阻害するもの、または配列をめちゃくちゃにするものを意味しています。

自在スパナ(monkey wrench)それ自体はボルトを回すなど役目を果たす便利な道具ですが、動いている工場機械の中に投げ入れることは当然間違った使い方であり、大きな事故を招くからです。

「訓練士」の役をする俳優には2人のアドバイザーが就くか、もしくは2人の俳優が「訓練士」を演じるべきでしょう。これは「自在スパナを投げ入れる人(妨害人)」が出現したときに、それと戦う役です。そのためには「訓練士」は強さと経験を備えた人である必要があるでしょう。

さらに追加してもよいのは、悪役のリーダー、カウンセラー、年寄りです。彼らは作業を不透明にすることで利益を得ようとします。または、「熱意の無い怠け者の市民」の役を作ってもいいでしょう。このような人物は現実では失踪することが多いのですが、劇の中では俳優は逃げずに、キャラクターの地位や評判を詳しく演じます。

また集団で「会計」の役柄を話し合います。「執行部の会計の候補者」を2人決めます。一人は「経理を担当したことのある教師」という遠方からの来訪者です。この人は町に何の関連もなく、市民から信頼を得るようなことも行っていません。しかし会計という役職はは金銭を管理するものであり、したければ現金だけ持って逃走することもし得るのです。もう一人は「読み書きを教わっていない年寄りの女性」です。彼女は文章を読めませんが、数を数えることはでき、正直者と評判で、市民から信頼されています。彼女は共同体のために良いことを望むため、共同体に利益をもたらす目的ならば頼りになる存在です。

この集団の役目は、様々な役柄への演技指導や教習を通して、どうやって執行委員を決めるか、そして誰が執行委員になるか、を決定することです。選挙というものは、無記名くじ引きも含め、多くの自治体では不平等なものだと考えられていて、話し合って世論を決める方が公平なのだ、ということを集団には伝えます。また世論の決定には学問的な役割もあり、色んな役柄の意見が考えられ、みんなで評価することができます。

結果としてもたらされる多面体の会話は、自身のなかで、訓練士が実際に現地で遭遇するであろう事象を想像して理解することができます。その話しあいの目的は共同体が強化のために選んだ企画を管理する執行委員を決めることです。

同じセッション内で休憩をはさみながら、活動計画を作ったり、その計画をもとに最初の企画をデザインしたり、と内容を発展させます。

状況の査定

このセッション(参加方式の査定)は「執行委員会の編成」と「企画の計画を準備する」との間に入ります。査定は計画の前に完了されます。

スキルを育てる中では、英国サセックス州または米国コロンビア大学で考案された PRAまたはPAR方式 をもとに説明するといいでしょう。もし PRA/PAR の専門家をワークショップに招くことが出来れば最良です。

同時に、これは訓練士にとって現場での実習という良い機会です。あなたは始めに(訓練の数週間前に)現地のリーダーと共同体の公務員に連絡して予約をとっておきましょう。共同体は田舎でも都会でもいいです。この訓練ワークショップでは、あなたは訓練士たちを連れてこの地域を見て回ります。しかしこの合宿は単なる観光になってしまってはいけません。訓練士たちに、自分たちが共同体の市民であると仮定させ、準備させます。前回のセッションで行った劇の配役のことは忘れ、ただその地域の住民なんだと仮定すればいいのです。

彼らには、この合宿の間は現地でノートをとったりスケッチを描くということを伝え、また合宿のあとは全員で集まって地図を作り、現地で観察したことをまとめて現状の査定レポートを作る予定だということを教えておきます。査定レポートにはポジティブな面とネガティブな面を書きます。ポジティブな面とは企画に使えるであろう可能性や資源です。ネガティブな面とは破損している設備や機能していないサービスです。

合宿後のセッションでは訪ねた地域の公務員を招いてもいいです。そうすることになれば、出来るだけ経験ある公務員を招いて、訓練士が査定レポートを書き上げるのを見てもらいます。この時はまだ公務員にプレゼンテーションを頼んではいけません。

訓練士には、訪ねた地域の査定レポート(スケッチを含む)を書き上げるという課題が出されます。訓練士の人数に応じて、4〜5人のグループに分けた方がいいでしょう。それぞれのグループに査定レポートの違った部分を割り振ります。彼らに注意すべきは、この小さなグループは作業班であり話し合いのグループではありません。そして彼らは共同体の査定の要素を作る必要があります。彼らにはペンと紙やホワイトボードに書き込むためのマーカーなど必要な筆記具を配給します。

全ての小さなグループの作品を集め合わせ、統合された評価レポートを作ります。これが終わったら、訓練士を全員集めてその統合の評価レポートについて話し合います。この話し合いのセッションは時間があまった場合にのみ行えば良いです。無理に行う必要はありません。評価レポートを書き上げることが、訓練士たちには重要な作業なのです。あまり沢山の反省会を行うと、しつこくなってしまいます。外部のPRA(PAR)専門家を招くのは、合宿の前でも後でもいいです。

共同体活動計画と企画デザイン

(特に田舎の)共同体の市民や、経験の浅い訓練士は、「活動計画」と「企画」を同一と誤解している人が多いです。この理由は、歴史的に共同体発展活動では発展委員が全ての計画を作り、市民は給料なしの労働だけをさせられたからです。同じ理由から、共同体のための支援活動は、特に旧植民地では、反発を受けます。なぜなら「共同体発展」という名の下に行われたのは、強いられた労働や奴隷制だったからです。

あなたが訓練士たちに確認するのは、共同体の市民が診療所や学校や水飲み場が欲しかったら、あるいは不動産を安く借りたかったら、公務員ではなく市民が組織化され計画を行うべきなのだ、ということを訓練士が市民に伝えることです。市民に責任をとらせ計画を仕上げさせるのは実際には難しいので、訓練士は単に自分で終わらせてしまいたいと思いがちなのです。

でも、ダメだよ!

あなたがこのセッションを、(執行部の選択で幕を開けた)前回の劇セッションの続編と考えて始めてもいいです。一部の役は変えてもいいです。前回の劇では「読み書きを習っていない年寄りの女性」が選ばれたことが望まれます。そうすれば「遠方からの教師」を演じた訓練士たちは、今回は違う役を演じます。また「自分たちの利益のために作業を仕切ろうとする役」は、その後も継続して登場させます。違う目的で作業を仕切ろうとする役を加えてもいいでしょう。

新しい役として考えられるのは、理由がどうであれ共同体の支援活動に反対していて、政府が面倒を見てくれるまで待つべきだと主張している役柄です。現実には、そのように共同体の干渉に反対する人というのは、これまでの状態が有益だった人です。例えば、市民を過保護に面倒を見ることで選挙で当選したり昇進することが出来た市長や公務員などです。

今回は「執行委員会」を部屋の前方のテーブルに配置し、それ以外の訓練士は「市民」の役として執行委員会の会議を見学します。市民は会議を「見る」ことは出来るのですが、執行委員会が伝えない限りどんな決定が下されているかは知ることができません。執行委員会は下した決定を市民に伝えるか、そして伝えるならその日時を決めます。時々、市民の一人が会議に参入し決定を操作しようと自分の意見を執行部に訴えかけます。そのような市民とは自分の利益のために操作しようとする人です。

この作業のはじめに、執行委員会は共同体計画を作る必要があります。例えば5年計画だとしましょう。これは配布資料の4つの質問をもとにして作ります。4つの質問を大きく書いたポスターを壁に貼ってもいいでしょう。プロフェッショナルな仕上がりでなくてもいいです。計画には1個以上の企画が記されます。「読み書きの教習」など物質的でない企画も含んでいいです。

地区計画を担当する役(とアドバイザー)を新しく加えると良いでしょう。彼らは共同体がそれより大きい地域の計画に従うべきだと主張しますが、執行委員会の意見は大きい地域(民主主義でいたいのなら)は小さい共同体の要望に耳を傾けるべきだ、というものです。このような会話が功を奏しロールプレイは1時間に及ぶでしょう。あなたはここでロールプレイを中断し、考察を正式に話し合います。

あなたの共同体活動計画を作るセッションが終わったら、休憩をとります。この実習自体が訓練なので、反省会を行う必要はまだありません。ここで映画やビデオを見せたり、昼食の時間にしたり、また明日、としてもいいです。企画デザインのセッションは、計画のセッションとよく似ています。配役を変えて訓練士たちが色々な経験を出来るようにし、色々な市民の人生を知らせるといいでしょう。このモジュール以外の配布資料を使いたければ、企画デザインだけに焦点をあてた記事もあります。 企画デザインを参照。

活動のための組織化

この モジュール最後の記事 の役目、組織には明確な目的があるべきで、目的に沿って組織化がなされないといけない、ということを訓練士に教えることです。このサイト上の色んな場所で強調されているのは、組織化されていればいるほど共同体は強化されるということです。これは「容量の16個の要素」の一つです。「強化の測定」を参照。

もし訓練士たちが若く健康的なら(本来はそうあるべきですが)、このことはチーム制のスポーツを例にとって示すことができます。これは訓練士とよく話し合いましょう。サッカーやハンドボールの短い試合を設けます。2つのチームに分け、それぞれに同じ人数がいて、同等の技術を持っているようにします。一つのチーム内は組織化されポジション(コーチ、ゴールキーパー、ディフェンス、左中右フォワード)を決めます。もう一つのチームでは組織化はせず、全員が必ず全てのポジションを持ち、コーチは指示してはいけないことにします。試合を行ってみましょう。試合はとても偏っているでしょう。

短い時間で試合終了し、全員で組織編成について話し合います。市民の多くは組織編成は執行委員会を作れば済むと思っています。彼らは企画が実行され完了するためには自分たちも組織化に加わる必要があるということを軽視しがちです。それを実行する組織は執行部の中のさらに小さな委員会でもいいです。同じ人員を含んでも、違う市民を含んでもいいです。

執行委員会の目的とは、共同体がどの方向へ進むのか、またどうやってそこへ辿り着くか、などを決定することです。実行委員会の目的とは、企画を完了させることです。2つの委員会は違う目的を持ち、違う役目を担います。ですから、市民が知っておくべきなのは、2つの違う活動が功を奏して企画が完了するのです。

実行委員会の配置をする際に注意するのは、この組織は決定のためではなく企画の完了のために作られるのです。活動のための組織なのです。企画全体が完了するためには細かい作業がなされる必要があります。実行委員会はその細かい作業を一つ一つ明確にし、それぞれを誰が担当するのか決めます。

ですから、企画デザインには様々な担当の役割と責任を記すべきです。建設の期間中などは、実行委員会は執行委員会よりも頻繁に会議を開き、責任を課された市民は自分の仕事のどのくらいが完了しているかを報告するべきです。

あなたはロールプレイのセッションを続けて、それを共同体活動計画の作成、企画デザイン、実行委員会の編成、企画の完了(共同体の決定に携わる執行委員会とは逆に)、にあてると良いでしょう。セッションは様々な方法で組み合わされることが出来るので、あなたは訓練士たちと話し合って決めると良いでしょう。

結論

これらの5つのモジュール(そして組織化についてのこのモジュールは特に)で、あなたは訓練士ではない人を、教習して訓練士を育成することができます。

これは選択的な作業でもあるため、個人が不要だと思うと判断する物はしなくてもいいのです。

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© コピーライト 1967年, 1987年, 2007年 Phil Bartle
ウェブデザイナー Lourdes Sada
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最終更新日:2011年10月27日

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